山に入ると、まだ土が湿っていた。
雨が前々日に降っていて、前日も天気は曇りと小雨。
歩けない程ではないけど、靴が汚れるかもなぁ・・とぼんやり思った。
地面が土だと、なんだかテンションが上がる。
石とかも少なくて、歩きやすい。
道の前に水が、チロチロと流れて横切っている。「川になってるよ!」弟くんが興奮気味。
雨の後だからなんだろうなぁ、と思う。
街中で暮らしていると、前の日が雨だろうが曇りだろうが、さほど変わらないけど、山だと全然違う。
こうやってたまった雨水が流れてたり。
おじさんが降りてくる。
今日初めてすれ違う人。
すれ違う時にあいさつしないと!って思い、おじさんを視界のはじっこで確認していると・・・。
立ち止まって、道の横にあった亀の子タワシみたいなので靴を磨き始めた。
それを見て、なぜか衝撃を受ける。
山道すごい・・・!
一瞬で理解した!
登山の人のための亀の子タワシが山に常備されているなんて。
きっと誰かが、どろがついた靴を洗うために使って、置いていったやつなんだろうけど、それを他の人も利用する。
ハイカー同士の、交流!会う事はなくても、お互いの力になっている。
私も降りる時は絶対あそこで靴を洗う!!!
そう心に決めた。
仲間になった感じがする。
思ったよりも地面がぬかるんでいて、不安がよぎる。
ズルっと足を持っていかれて、転ぶのも嫌だけど、滑落が怖い。
なるべく山側を歩いて進む。
ひたすら歩く。
歩いて行くと、やはり気になるコケ。激写しながら進む。
弟くんは私を待って、ちょいちょい止まってくれる。常に少し前を歩いている感じ。
そんな弟くんが、急に止まって私が追い付くのを待っていた。
不安そうにしている。
「どしたの?」「しっ・・・」
何かが聞こえるようです。
グルァ・・グルァ・・
私にも聞こえるけど、なんでそんなに怖がっているのか?「鳥かな?変わった声だね」「くまだよ・・」「え?」
クマ!
「えっ熊なわけないじゃん」
そう言ったものの、ここ、山。→熊は山にいる。
ちょっと暖かくなってきてる。→お腹すいた熊。
熊の鳴き声聞いた事ない。→弟くんはいろんな動画見てて、ママより詳しい。
!?
え、そうなの?熊なの?これ熊なの???
ママ、プチパニック。
確かに、ニュースにある熊に襲われる人だって、いつも襲われてるわけじゃなくて、「その時」だけ襲われてる訳で。
今日が私たちの「その時」って事?
いやいやいや・・・
そんな馬鹿な!
落ち着こう。
落ち着いて考えよう、今までこの山で熊出たってニュース見た事ある?検索して見よう。
・・・圏外って!
ほら熊って違うでしょだったとしても小熊でしょ、きっとそうだよ。
「引き返そう・・・!」
えっ、ここに来てまさかの弟くんから帰ろうとか。
「待って待って、違うって。熊出るとか聞いた事ないし」
でも動くのもなんとなく怖くて棒立ち状態。
「熊じゃないよカエルじゃない?」そう、カエルな気がする。
「熊、こんな鳴き続けないでしょ」そう、私いいこと言った。
熊だったら鳴き続ける事はないはず。
「・・・」
弟くんの答えを待つ。弟くんの方がこういう事は詳しい。熊ではないと思うけど、弟くんも納得の上で否定したい所。
「・・・」
いや、熊じゃないでしょ・・・。こんなでかいリュック持ってきて、むっちゃヤル気でカメラまで持ってきて、熊と遭遇とか、ナイナイヤダ。
「・・・そうだね、熊じゃないね。うんうん。違う違う。」
弟くんも否定してくれた。「ね、行こう。」心とは裏腹に、なんでもない風に弟くんを引っ張っていく。
やっぱ山怖い。
▼弟くんが恐怖した声がコチラ。たぶんカエル。